小林一郎会長のブログから再録します。
2011年06月04日
知られざる小説家
小林一郎
信州出身の知られざる小説家として、羽志主水、小林蹴月、三津木春影について書きました。ここでまとめておくことにします。
三人に共通するのは、大衆文学の作家であったということでしょう。彼らは一般的な文学史の中に位置づけられていません。小林蹴月や三津木春影は信州を舞台にしたエッセイもあるのですが、膨大な量を誇る『長野県文学全集』などにも収められていません。しかし彼らは大衆に支持されていましたし、三津木春影などは後世に与えた影響が小さくありません。
音楽にはクラシック以外に様々なジャンルがあって、各自の好みに従って愛好されています。そしてどのジャンルも、その価値において上下はありません。
文学にも、純文学ばかりでなく、大衆文学としてくくられる様々なジャンルの文学があります。しかし近代文学の研究者は、とかく純文学にばかり目を奪われて、大衆文学にまで視野を広めないということになりがちです。ことに地方では、そうした傾向が強いように思われます。夏目漱石と源氏物語だけが文学ではないのです。
さいわいにも、現代は純文学と大衆文学の境界があいまいになって、様々な文芸が隆盛になっています。埋もれた過去の様々な文学にも、もっと焦点を当ててほしいものです。立川文庫のような通俗的な読み物を含めた、新しい文学史が構築できるかもしれません。